酵素グリオキサラーゼと皮膚内におけるその保護作用

ディオール サイエンス研究所のカリーヌ・ニザール、及びパリ第6大学(ピエール エ マリー キュリー大学)教授イザベル・ペトロポーラスのインタビュー

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酸化された時に修復可能なアミノ酸はたった2種類しかないため、DNAを修復する複合体が多数あるのとは対照的に、タンパク質を修復する複合体はわずかしかありません。これらの複合体の1つは、PMSRまたはMSR (メチオニンスルホキシドレダクターゼ)という名称で知られています。この複合体は皮膚内にあり、酸化ストレスから皮膚を守ります。

パリ第6大学(ピエール エ マリー キュリー大学)とディオール サイエンスとの提携は18年前に始まり、パリ第6大学(ピエール エ マリー キュリー大学)研究所長ベルトラン・フリゲとディオール研究所の研究者カリーヌ・ニザールによって推進された。そこでカリーヌ・ニザールと、その長年の同僚であるパリ第6大学(ピエール エ マリー キュリー大学)のイザベル・ペトロポーラスにこのグループの研究について聞いてみた。


ベル・デュメ氏: 研究の背景について説明して頂けますか。  

カリーヌ・ニザール氏 &イザベル・ペトロポーラス氏: 私たちの身体の細胞はすべて、機能的で、安定したプロテオームを維持するために、タンパク質ホメオスタシスを調整する緻密な仕組みに依存しています。加齢に従って、細胞がプロテオームの安定性を維持することがますます難しくなっていき、それが徐々にタンパク質の変性、それに続く肌の老化へと繋がっていきます。

皮膚には変性タンパク質や非機能性タンパク質を除去する数多くの酵素複合体があり、私たちはその中でも最も重要な、細胞や細胞核内にあるプロテアソームについて調べることから研究を始めました。プロテアソームは、老化や紫外線、そしてあらゆる種類の酸化ストレス(大気汚染、タバコの煙など)によって変化が生じます。細胞のプロテアソームによく似たLONプロテアーゼは、ミトコンドリアに存在します。

酸化後に修復可能なアミノ酸はたった2種類しかないため、タンパク質を修復する複合体は、DNAを修復する複合体が多数あるのとは対照的に、わずかしかありません。これらの複合体の1つは、PMSR、またはMSR (メチオニンスルホキシドレダクターゼ)という名称で知られています。この複合体は皮膚内にあり、酸化ストレスから皮膚を守ります。

ベル・デュメ氏:MSR に関する研究について、そしてそこからどのようにしてグリオキサラーゼ(GLO)システムに関する研究をすることになったのかお話いただけますか。  

カリーヌ・ニザール氏 &イザベル・ペトロポーラス氏: in vitro環境で紫外線を照射した皮膚細胞について研究し、MSRの発現と活性が紫外線に当たることと老化によって低下することが分かりました。だから紫外線に当たったり、老化が進んだりすると酸化ストレスから皮膚を守る効果が薄れ、細胞の保護が脆弱になるのです。私たちは、再構成皮膚のサンプルについても研究し、皮膚が酸化すると、輝度メーターで測定した時に光の反射が少なくなる(つまり皮膚の光反射率が低下している)ことを発見しました。  

これらの結果に基づいて私たちは、リポクロマンという有効成分を使用した化粧品を開発しました。リポクロマンは、ビタミンEに似た強力な抗酸化物質で、大気汚染や紫外線などの環境要素が生成する活性酸素種(ROS)と反応性窒素種(RNS)の有力な除去剤であり、MSR活性を促進します。  

GLOシステムは、プロテアソームやMSRに似た、体内にあるもう一つのよく知られたデトックスと抗グリコキシデーションシステムですが、プロテアソームやMSRに先立って作用するため、それらとは別のレベルに作用してタンパク質に有害ないくつかの成分を除去します。最近の研究で、GLOが動物の寿命に対して重要な役割を持っていることが分かりました。そこで私たちは、GLOがヒトの肌でどのように作用するかを調べることが重要だと思ったのです。

ベル・デュメ氏:グリオキサラーゼについて行った研究と、これまでに得られた最も重要な結論について、簡単に説明していただけますか。  

カリーヌ・ニザール氏 &イザベル・ペトロポーラス氏:私たちは、グリオキサラーゼ(GLO)が、代謝作用によるある種の産物や酸化ストレスから発生するグリオキサル(GO)のようなジカルボニル化合物をどのように除去するのか観察しています。今まで、糖尿病性血管合併症や循環器疾患から守るためにGLOが果たす役割に関連する研究が主に行われていましたが、皮膚細胞内で発生するジカルボニル化合物への解毒作用の重要性に関してはあまり知られていませんでした。  

GLOはジカルボニル化合物を除去し、それにより細胞をさらなる酸化から守ります。先ほど申し上げたように、GLOシステムには解毒作用がありますが、これまでそれが皮膚に存在するのかどうか分かっていませんでした。私たちの研究で初めて、ヒトの皮膚に実際にGLOが存在しており、ジカルボニルストレスがケラチノサイトタンパク質にも影響を及ぼすことが証明されたのです。細胞内糖化とグリコキシデーションは、細胞機能の変化を招きます。ですからGLOシステムは、そうした変化を防ぎ、皮膚のホメオスタシスを守るために極めて重要です。

ベル・デュメ氏:グリオキサラーゼは皮膚のどこにあるのでしょうか。またグリオキサラーゼはどんな機能を持っているのでしょうか。  

カリーヌ・ニザール氏 &イザベル・ペトロポーラス氏:特に表皮細胞と真皮繊維芽細胞にあり、特に表皮基底層では、私たちが研究した他の複合体と同じくタンパク質のホメオスタシスにおいて、保護する役割を果たしているようです。予備段階でも、表皮細胞の増殖と分化において、グリオキサラーゼが重要な役割を果たしているに違いないという結果が出ていました。  

ベル・デュメ氏:GLOシステムの保護機能について、簡単に説明していただけますか。  

カリーヌ・ニザール氏 &イザベル・ペトロポーラス氏: GLO酵素、グリオキサラーゼ1(GLO1)、グリオキサラーゼ2(GLO2)は、グルコースや他の炭水化物の代謝から直接(GOの場合)、間接(MGOの場合)に来るジカルボニル化合物である、グリオキサル(GO)とメチルグリオキサル(MGO)を除去します。GOとMGOは細胞にとって有害で、細胞内タンパク質と反応して細胞タンパク質を変性させ、機能を変化させます。GLO1とGLO2は続けてGOとMGOを、例えばグリコール酸塩(GOの場合)のようなより害の少ない物質に変換します。  

この解毒作用により、GLO系はGOとMGOが細胞内で増えるのを防ぎ、したがって細胞、ひいては組織の老化の原因となるタンパク質の損傷を制限します。

ベル・デュメ氏: 2人のチームの最も重要な実験について説明していただけますか。  

カリーヌ・ニザール氏 &イザベル・ペトロポーラス氏: 私たちが行ったGLOのin vitro試験で、老化現象を示す表皮細胞や、年配者から得られた表皮細胞でのGLO1の活性が著しく低下することが分かりました(発現の変性はない)。GLO系でのこの変化は、GOやMGOによる変性タンパク質の増加を促します。年配者の紫外線を曝された皮膚、特に真皮では、紫外線を曝されていない皮膚に比べてこれらのタンパク質が増加します。

  一方、これらのサンプルのGO変性タンパク質のレベルは、GLO1が多く発現する表皮基底層では増えません。以上からGLOシステムは、増殖細胞を損傷から守っているようです。



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Bel Dumé

Science Writer & Editor

Bel Dumé PhD is a science and technology writer and editor based in Paris, France. She has over 10 years experience in science communication, both within a major publishing house and several press agencies.