酵素グリオキサラーゼ、皮膚の老化を防止

エリオス(LVMH研究所)とパリ第6大学(ピエール エ マリー キュリー大学)の研究者が、実際に皮膚が自然の保護システムを有していることを確認

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皮膚の老化は、年月の経過を最も明確に感じさせる。それは時間の経過による本質的な老化と、太陽光線に曝されることで生じる紫外線による外因性の老化の双方がもたらす複合的なプロセスである。皮膚は老化するに従って弾力性を失い、表皮と真皮は徐々に薄くなり、新陳代謝が劇的に低下する。また表皮と真皮の接合部の隆起も変形させる。皮膚の老化は、シワを生じさせるだけでなく、傷が治りにくくなるなど、多くの生理的機能を損わせる。

これらすべての変化は、主に、体内の酸化プロセスによって変性されたタンパク質などの生分子が損傷を受けるために生じる。酸化は日々起こっており、呼吸や食事や生活習慣の結果であるが、それが皮膚では紫外線や他の酸化ストレス(大気汚染やタバコなど)で加速されることがある。

損傷プロセスの一例として、さまざまな代謝経路で生じるジカルボニル化合物、グリオキサル(GO)とメチルグリオキサル(MGO)がタンパク質と反応することが挙げられる。これらの化合物は反応性が高く、細胞およびDNAやタンパク質などの細胞構成要素を変性させる。時が経つにつれてこの変性は細胞の不可逆の損傷となる。

しかしGO、MGOの両方に対する自然の防衛線がグリオキサラーゼ(GLO)という形で存在するというのは喜ばしい知らせである。グリオキサラーゼは、2つの細胞内酵素、グリオキサラーゼ1(GLO1)とグリオキサラーゼ2(GLO2)から成る。この2つの酵素は共にGOとMGOの解毒に関与する。  

パリ第6大学(ピエール エ マリー キュリー大学)とエリオス(LVMH研究所)は、このグリオキサラーゼ(GLO)システムが人間の皮膚に存在することを実験で、初めて証明した。「ジカルボニルストレス誘導グリコキシデーションは、エラスチンやコラーゲンといった細胞外タンパク質のみに影響を与えるだけではなく、細胞内タンパク質にも影響を与えることが明らかになりました。これは注目に値する結果です。」研究チームリーダーのパリ第6大学(ピエール エ マリー キュリー大学)のイザベル・ペトロポーラス氏とエリオス(LVMH研究所)カリーヌ・ニザール氏は説明する。「この細胞内糖化は、皮膚の「構造」部分(エラスチンとコラーゲン)だけでなく、「生きている」部分を修復する細胞の機能に変化を起こします。そうした変化を防ぎ、皮膚のホメオスタシスを守るために、GLOシステムは極めて重要です。」  

グリオキサラーゼ(GLO)システムは皮膚細胞の中心である表皮細胞(組織の再生を司る)と真皮繊維芽細胞(皮下組織のすぐ上の層)にある。GLOシステムはGOとMGOが生成されるとすぐにそれを検知して中和するため、細胞やその構成要素に害が及ぶのを防ぎ、細胞、ひいては組織の老化の原因となるGOとMGOによるタンパク質変性を制限する。GOとMGOは、まずGLO1、次にGLO2によって除去され変換されて、グリコール酸塩(GOの場合)などの無害な分子に変換される。        

しかしながら、GLOシステムは年月の経過につれて衰弱し、効果が低下するという問題がある、と研究員たちは言う。この活性の低下は、紫外線で老化した肌においてはより明白である。

                

グリオキサラーゼは肌のどこにあるのだろうか。

In vitro試験において、研究者たちは、GLO1とGLO2に対する抗体を用いて、若い人の皮膚と年配の人の(あるいは老化現象を示した)皮膚の双方で、これらのグリオキサラーゼがどのように表皮細胞と繊維芽細胞に発現するのかを調査した。また、これらのサンプルでグリオキサラーゼがどの程度活性するのかについても観察した。そして皮膚細胞の老化にしたがって、繊維芽細胞内でのGLO発現に変化はないが、GLO1活性と発現は低下することを発見した。またGLO2が表皮細胞内に発現し、紫外線にさらされることで減少することも明らかになった。 

「皮膚のGLOシステムは、皮膚、特に幹細胞のある表皮基底層でのタンパク質のホメオスタシスを守るようです。」とペトロポーラス氏とニザール氏は説明する。「私たちは、表皮細胞がどのように増殖や分化をするのかということに対してグリオキサラーゼが重要な役割を果たしているであろうことを示す中間結果も得ました。」

「老化した表皮細胞でのGLOのin vitro試験では、GLO1活性が著しく減少しますが、その発現自体には何の変化もないことが分かりました。」と2人は付け加える。「GLO1活性の減少はGOとMGOによって変性されたタンパク質の蓄積をもたらします。これらの変性タンパク質は、紫外線に曝され老化した皮膚のサンプル、特に真皮内にも蓄積がみられます。けれども紫外線に曝されていない皮膚のサンプルではそれほど蓄積されません。」

 「逆に、GLO1が多く発現する表皮基底層では、損傷を受けたタンパク質のレベルは上がりません。したがってGLOは、増殖細胞を損傷から守っているようです。」 

若い人の皮膚と年配の人の皮膚を用いたin vitro試験では、表皮の表面層にGLO1が発現すること、そしてその発現が実は加齢とともに増加することが明らかになった。紫外線に当たることで、皮膚サンプルの年齢に関わらず、この発現が減少する。シミの多い皮膚でも、ジカルボニル分子によって人工的に24時間ストレスを与えた皮膚細胞の結果と同様に、GLO発現が低下する。  

ディオールとパリ第6大学(ピエール エ マリー キュリー大学)の研究者らは最終的には、これらの新しい実験結果を活用し、GLOシステムの活性を若いレベルに保つ方法を突き止めたいと考えている。それは、効果的にGLOシステムに狙いを定めて促進することができる酸化防止技術を見つけ出すことで可能になるのではないだろうか。

  

老化、紫外線曝露、およびグリオキサラーゼ発現

老化した肌でのグリオキサラーゼの位置確認、その量の測定、および老化における紫外線曝露の影響の観察

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B:基底層でのGLO1正規化レベル (AU)

D:表皮でのGLO2正規化レベル (AU)

F:表皮でのGLO2正規化レベル (AU)

© グリオキサラーゼ酵素の表皮での局在の異なりと、老化および紫外線老化の間の調整, Experimental Dermatology 2016, Sabrina Radjei et al.

ヒトの皮膚のバイオプシーの蛍光顕微鏡検査法で幅広く使用されている蛍光染色液DAPIで、表皮細胞と繊維芽細胞の核を着色し、特定のポリクローナル抗体を持ったグリオキサラーゼを発見。(A)、 (C) : 若いドナー(平均年齢:27.5 +/- 1.7歳)10人と年配のドナー(平均:63.2 +/- 1.6歳)10人の皮膚生検の画像。共焦点レーザー顕微鏡を用い、GLO1は基底層周辺と基底層の細胞数を、GLO2は表皮表面を測定し標準化したグリオキサラーゼの相対発現による画像。(E) : 年配のドナー10人(平均年齢:63.2± 1.6歳)の紫外線の保護した皮膚(PP)と紫外線に曝された皮膚(PE)のバイオプシーの画像例。画像はここでも共焦点レーザー顕微鏡を用い、表皮表面を標準としたGLO2の相対発現を測定したもの。Ep: 表皮、De: 真皮実線は皮膚の最外層を、点線は基底膜を示す。(B)、(D): 表皮基底層でのGLO1のレベルと、表皮全体でのGLO2のレベルを測定。(F): 表皮でのGLO2発現を測定。

グリオキサラーゼ

GLOシステムは、生体細胞においてジカルボニル化合物の解毒を行う主要な酵素システムで、触媒作用によって反応性のα-オキソアルデヒドをα-ヒドロキシ酸に変換する役割を持つ。2つの酵素、GLO1とGLO2から成り、補因子としてグルタチオン(GSH)を必要とする。GLO1は、進化した二量体酵素で、バクテリア、菌類、植物、酵母菌、哺乳類に見られ、GSHのグルタチオン群がMGOやGOなどのアルデヒドと反応する時に自然に生じるヘミチオアセタールを、触媒作用によって異性化する。そしてGLO2(モノマーとして有効なチオレステラーゼ)は、s-(2-ヒドロキシアシル)グルタチオン誘導体を加水分解して、GSHを再生し、ヒドロキシ酸を生じさせる。MGOはD-乳酸に、GOはグリコール酸塩に変換され、GLO2は、GSHで細胞を満たすが、GLO1がそれを消費する。

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Bel Dumé

Science Writer & Editor

Bel Dumé PhD is a science and technology writer and editor based in Paris, France. She has over 10 years experience in science communication, both within a major publishing house and several press agencies.